織田信長の弟・有楽斎:人を動かし、茶の湯で歴史を繋いだ言葉の力 

English Full Story (Oda Urakusai and Jo-an)

織田信長の弟であり、茶人として名を馳せた織田有楽斎(長益)。本能寺の変や関ヶ原の戦い、大阪の陣ーー日本の歴史が大きく動いた激動の時代を生き抜き、晩年にたどりついたのが、国宝茶室「如庵(じょあん)」でした。

わずか二畳半台目(約六平方メートル)の空間でありながら、実際の広さ以上にゆったり感じられる「如庵」。そこには、戦国の世を生き抜いた有楽斎が最後にたどり着いた美意識と、人をもてなす心が凝縮されています。「如庵」という小さな空間に、どのような思想を込めたのでしょうか。

有楽斎が生きた時代をたどりながら、その生き方と美意識を紐解きます。

Joan Tea Room, National Treasure, by Oda Uraku. 織田有楽斎の如庵茶室
国宝茶室・如庵

織田有楽斎の生涯 —— 武人から和議の名手へ

織田有楽斎は、「尾張の虎」と呼ばれ、尾張国に勢力を築いた織田信秀の十三男として生まれました。織田信長の弟でもあります。信長、そして信長の嫡男・信忠に仕えましたが、1582年の本能寺の変で二人を失います。その後は信長の次男・信雄に仕え、信雄の改易後は豊臣秀吉の御伽衆となりました。さらに秀吉と徳川家康の間の交渉にも携わり、武力ではなく、言葉と人のつながりを生かして存在感を発揮していきます。

武で名を馳せることはありませんでしたが、有楽斎は、敵味方を超えて人の命を救う一面もありました。たとえば、信長の重臣であった滝川一益です。秀吉と家康が直接対峙した小牧・長久手の戦いに続く蟹江城合戦で、秀吉にちいた一益が家康に敗れた際、有楽斎はその命を助けたと伝えられています。

戦乱の世では、勝者と敗者が激しく入れ替わりました。そのなかで有楽斎は、織田家の嫡流につながる立場を保ちながら、豊臣家にも徳川家にも属さない独自の距離感を持ち、和平のために尽力します。茶の湯を通じて糸の心をつなぎ、対立する者同士の間に立つ。有楽斎の生涯は、言葉で時代を生き抜いた人生でもありました。

国宝「如庵」に見る美学

大坂の夏の陣を経てた有楽斎は、京都・建仁寺の塔頭、正伝院に隠棲します。そこで、自らの茶の湯の集大成として建てたのが「如庵」です。「如庵」は、現存する国宝の三名席ーー千利休の「待庵」、小堀遠州の「密庵」に並ぶ日本を代表する茶室の一つです。その空間には、有楽斎の美意識と客をもてなす心が凝縮されています。有楽斎は、

「客をもてなすをもって本義となす」

という茶の湯の心を残しています。

杮葺きの瀟洒な外観を持つ「如庵」は、二畳半台目(約六平方メートル)の空間でありながら、実際の広さ以上にゆったりとした印象を受けます。その秘密の一つが、床脇に設けられた「筋違いの囲い」です。うろこ板と呼ばれる三角形の板畳を取り入れることで空間を広くしています。また、火打形にくりぬかれた炉の前にはめられた杉板は、室内に開放感をもたらしています。

Joan Tea Room, National Treasure, by Oda Uraku_織田有楽の如庵茶室
国宝茶室・如庵内部のイラスト

光の取り入れ方にも、有楽斎の工夫が見られます。突上窓(天井窓)からの光で明るさを取り入れつつ、往時、南向きであった丸窓から差し込む太陽の光は、茶事の進行に合わせて移ろいます。細い竹を詰め打ちにしてその隙間から光が室内に入る仕掛けを施した「有楽窓(竹連子窓)」からは柔らかな光が差し込み、また、障子を閉めると竹の影がゆるやかに映し出され、心を落ち着かせます。

そして、壁の腰張りに古い暦を用いた「暦張り」。こうした遊び心のある工夫もまた、客を楽しませようとする有楽斎のもてなしの心だったのでしょう。

小さな空間を、広く感じさせる。
限られた光を、豊かな時間に変える。
そして、客がその空間を楽しめるように工夫する。

「如庵」は、有楽斎が生涯をかけて培った「もてなし」の美学を、空間として表現した茶室なのです。

有楽斎の教えーー言葉の力

有楽斎が残したものは、茶室や茶の湯だけではありません。

戦国という、武力がものをいう時代を生きながら、対立する人々の間に立ち、交渉し、人と人とのつながりを大切にしたその生き方は、現代の対立が深まるリーダーにとっても、改めて「言葉の力」と「人をつなく力」の重みを思い起こさせてくれます。

国宝茶室・如庵を訪れ、一服の茶を味わう。そして、東海地方を中心に残る有楽斎ゆかりの歴史の舞台を訪ねる。そこには、戦国の世を生き抜き、兄・信長が掲げた「天下布武」の時代から、徳川家康による泰平の世の到来を見届けた、75年の人生があります。有楽斎の生涯は、単なる「戦国武将」や「茶人」の物語ではなく、激動の時代をどう生き、異なる立場の人々とどう向き合い、最後に何を残すのか。その問いを私たちに投げかける物語でもあるのです。

さらに詳しく

・織田有楽斎の生涯をより詳しく知りたい方はこちら:
 >書籍『有楽斎 ― 信長の実弟にして織田家嫡流、天下泰平を導いた真の立役者 ―』

・英語版の物語はこちら:
 > Read the full story in English: Oda Uraku and Joan Tea Room

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